トークセッション「バナナを片手に——著者が語る?著者と考えるモノ?ヒト?社会」
INFORMATION
市民の視点から独自のアジア学を切り拓いた鶴見良行(1926-94年)が『バナナと日本人』(1982年、岩波書店)を世に問うてから、もうすぐ40年になる。バナナという「モノ」を通して、日本とアジアとの、そしてそこに暮らす人々との間の複雑にゆがんだ関係を浮き彫りにした同書は、現在も版を重ねる、現代の古典と言ってよい。折しも2020年、鶴見ともセンターとも縁の深い石井正子(編著)による『甘いバナナの苦い現実』(コモンズ、2020年8月)が出版されたのに続き、赤嶺淳氏による鶴見良行論「うちなる壁の向こうへ—知米派知識人の『脱米入亜』」も、清水展他編『自前の思想——時代と社会に応答するフィールドワーク』(京都大学学術出版会、2020年10月)で公刊された。そこで本トークセッションでは、前者の執筆者である石井正子、市橋秀夫(ともに共生社会研究センター副センター長)、そして赤嶺淳氏をスピーカーに迎え、自著を振り返りながら、バナナやモノ研究について、アジアや社会運動とのかかわりについて、そして鶴見良行について語っていただく。「バナナでも食べながら」友人と語らうような自由な会話を通して、現代社会の様々な課題について参加者一人一人が考えるとともに、鶴見が歩いたその先の地図をともに思い描くことを試みる。
スピーカー
一橋大学大学院社会学研究科教授
赤嶺 淳 氏
大学2年生になる春休みに訪問したタイに魅せられ、以後、鶴見良行の「追っかけ」さながら、鶴見が描いた世界の追体験に没頭。フィリピン大学への留学を経て、2001年から大学の教壇にたつ。ナマコやクジラといった海洋生物の利用から、現代社会の複合性を研究中。おもな著作に『ナマコを歩く——現場から考える生物多様性と文化多様性』(新泉社、2010年)、『鯨を生きる——鯨人の個人史?鯨食の同時代史』(吉川弘文館、2017年)、訳書にアナ?チン『マツタケ——不確定な時代を生きる術』(みすず書房、2019年)など。
本学共生社会研究センター 副センター長、本学異文化コミュニケーション学部教授
石井 正子
大学院博士課程のときに初めて輸出用バナナ園が集中するミンダナオ島でフィールドワークを行う。公設市場で野菜売りを手伝いつつ、市井の人びとの目線から地域史を学ぶ。専門はフィリピン研究、紛争研究。おもな著作に『女性が語るフィリピンのムスリム社会——紛争?開発?社会的変容』(2002年、明石書店)、共著に『現場<フィールド>からの平和構築論』(勁草書房、2013年)、『地域?草の根から生まれる平和』(早稲田大学出版部、2015年)などがある。
本学共生社会研究センター 副センター長、埼玉大学人文社会科学研究科教授
市橋 秀夫
マルコス政権下のフィリピン民衆演劇運動に出会い、しばらく演劇ワークショップ活動に取り組む。その後零細小規模バナナ生産者の暮らしや欧米のフェアトレード運動の歴史についての調査も始める。専門はイギリス近現代社会史だが、人びとの経験のとらえなおしや<アーカイヴズ>という存在への関心から九州福岡のベトナム反戦運動のオーラル?ヒストリー調査もおこなう。共著に『イギリス文化史』(昭和堂、2010年)、『甘いバナナの苦い現実』(コモンズ、2020年)、共訳書にE?P?トムスン『イングランド労働者階級の形成』(青弓社、2014年)など。